03年第4回から6回までの調査登山記録

岩木山を考える会


第4回調査登山 ■7月27日■弥生登山道■参加者四名


1、登山道の整備状況の確認この道は弥生地区住民が組織する「結友会」青年部が毎年刈り払いをして整備してくれている。整備の特徴は植生を考慮して、つまり自然の状態を保持しながら刈り払 いをしているのだ。赤倉登山道とは質的に百八十度違う。標高が高く生育が遅く復元力の弱い草木の刈り払いはせず、目印とすべきダケカンバの枝を遠慮がちに切ってあ る程度だ。すばらしいことである。

2、高山植物の生育調査「岩木山にもかつてはキバナシャクナゲがあった。」という話しを聞いていたので、これまでも注意をしていたが、調査をすることにしてハイマツ沿いにかなり探索したが発見することは出来なかった。
 それよりもハイマツのすべてではないが褐色になり枯れかかっているものの多さに驚いた。いわゆる「まつくいむし(マツノザイセンチュウ)」によるものらしい。南 から秋田県まで被害が拡大しているようだがこの地点、標高千四百mの岩木山にもやって来たのだろうか。
 「マツノザイセンチュウ」の寄生を受けたマツは生理的な異常を来し、樹脂(松ヤ ニ)の分泌能力も止まり枯れてしまい、この間わずか数十日間の出来事だと言われている。


枯れているハイマツ

その他生物の状況確認

昆虫類

*登山口から二合目まで
ジョウザンミドリシジミが群飛、エゾミドリシジミ、アイノミドリシジミ、ウスイロオナガシジミ、アカシジミ、ヤマキマダラヒカゲ、ミドリヒョウモン、ウラギンスジ ヒョウモン、アサマイチモンジ。


ジョウザンミドリシジミ、エゾミドリシジミ

*三合目から姥石まで
クロヒカゲ、ヒメキマダラヒカゲ、スジクロチョウ、クジャクチョウ、メスクロヒョウモン、オオクロハナカミキリ、オオホソコバネカミキリ。


クロヒカゲ、メスクロヒョウモン(♀)


ヒョウモンチョウ(こちらがオス、♀と♂では別種のように違う。)


ヒョウモンチョウ(♀と♂の交尾、同種であることが解る。)

*姥石から耳成岩下部の小さな池塘まで
キアゲハ、ヒメキマダラヒカゲ、クロヒカゲ、ヤマキマダラヒカゲ、ルリシジミ、アカガネカミキリ(ハイマツの枯れ枝を食べていた幼虫が二日後に蛹化してこの種と判 明した。)ツヤケシハナカミキリ、コブヤハズカミキリ、アオジョウカイ、アベマルクビジョウカイ、マメゲンゴロウ、メススジゲンゴロウ。

 二〇〇一年から二〇〇二年とナラの木の芽を食べて成長する蝶、ジョウザンミドリシ ジミが非常に少なく心配されていたが、同種は今年多くて森の中、特にミズナラ林の縁や日が差し込む少し広い空間で群飛しテリトリーを張っていたのが特徴的だった。  耳成岩下部の小さな池塘にはモリアオガエルのオタマジャクシが多数生息していたし、池塘の周りには卵がたくさんあった。このオタマジャクシや蚊の幼虫などを餌と するゲンゴロウが確認された。マメゲンゴロウ多数とメススジゲンゴロウ♂1、♀3を確認した。メススジゲンゴロウは津軽、下北両半島部、白神山地では沢山発生地が 知られているが、その他では限られた山湖にのみ棲んでいる。津軽では岩木山・種蒔苗代、大鰐三ツ目内・戸和田山位にしか見つかっていない。ここは岩木山の第二発生 地である。氷河期の遺存種ともいわれ、全国的にも珍しい種にあたる。


モリアオガエルのオタマジャクシ

4、ゴミと標識の確認 ゴミは殆ど見受けられなかった。しかし、数年前に伐採したミズナラ林沿いではジュース等の空き缶・空き瓶が散見された。標識は古くなっているが新しいものに替 える必要はない。地面に落ちたり、傾いたりしているものを補修すれば十分その役目を果たすはずだ。


※第5回調査登山■八月二十四日■岳登山道■参加者二名

1、登山道の踏査と標識等の確認足場兼土留め用の垂木(横向きにそえてあるもの)の中に外れているものが数本あったので定位置に戻して補修した。杉植林地に曲がるところの標識柱の補修は素人 には出来ないので早めに業者に補修させるべきだ。

 2、スカイラインターミナル周辺に見られる外来種植物の確認(「岩木山の現場から」を参照)岩木山の特産種を含めた次の花(シラタマノキ、エゾシオガマ、エゾノツガザク ラ、ナガバツガザクラ、オヤマノリンドウ、センブリ、キキョウ、アズマギク、ヤマジノホトトギス、エゾフウロ、ヤマシャクヤク、イイヌマトンボ、ヒトツボクロ、ア ケボノシュスラン)などは岩木山では極端に生息場所が限られ、数も少ない。これらはその場所から消えると岩木山からなくなってしまう「岩木山の絶滅危惧種」であ る。悠久の岩木山を残すために、山菜をとるような気持ちでの掘り抜き「盗掘」等は絶対にやめてほしいものだ。
 調査登山で出会った貴重な蘭類の花の中で「青森県レッドデータブック」に収載されているのはイイヌマトンボだけである。
 因みに長野県や京都府等では提示してあるすべてを「絶滅危惧種」と指定して保護に務めている。
 青森県は自然がいっぱいなので絶滅することがないと高を括っているのだろうか。 これこそ保護行政の遅れである。率先して調査をし早く手を打つことを県自然保護課には強く訴えたい。


※第6回調査登山■九月七日■百沢登山道■参加者二名

1、登山道の整備状況と「送り」の撤収お山参詣の前に登山道整備として刈り払いを実施しているが、毎年整備行為(その対象と作業形態)が同じであるように思う。このようなことを毎年繰り返す必要があ るのだろうかと疑義を抱いている。たとえば、樹木の枝切り、時には幹もあるがこれは数年おきでいい。
 姥石と焼け止り小屋の中間地点二、三百mは草花の豊富なところである。ここでも 毎年ほぼ根本から刈りとってしまうのである。秋咲きのある種はここ数年咲かなくなってしまったものもある。植生を十分保護できる方策をとるべきだ。
 お山参詣後、必ずといっていいほど大沢にはビニール製の「送り」(目印とするも の)が残されている。基本的に「送り」は付けた者が持ち帰るものである。十数本撤収した。


着けられたままの「送り」(目印のこと)

2、腐らないビニールテープ等で作られた「御幣」のこと(「岩木山の現場から」を参照

3、放置エスロンパイプの再確認とその他残置エスロンパイプは、かなり太い物が錫杖清水の下部で二カ所にわたって発見された。来春、雪消え直後には撤去が可能だろう。
 また細い物が焼け止り小屋の下部五百mあたりに散見されている。これは雪崩で小屋が崩壊した時に一緒に流されて来たものかと以前から思っていたが、どうもそうで はないらしく、焼け止り小屋から姥石あたりまで引いた残存物であるらしい。


錫杖清水の下部で二カ所にわたって発見されたエスロンパイプ


「九月二十八日・長平登山道、十月二十六日・弥生登山道」と予定されていた調査登山は悪天と日程の調整がうまくいかずに中止になった。