*岩木山の岳登山道整備は何が問題だったのでしょうか*

[経過を追って報告いたします。]

*2002年6月1日

日刊青森建設工業新聞によって「岩木町・14年度発注見通し」により「岩木山登山道整備工事」のあることを知りました。
岩木町・14年度発注見通し
 ◎ 施行地・・岳登山道。
 ◎ 工期・・ 三〜五ヶ月。
 ◎ 工事概要・・
 ◆誘導看板等設置業務
  (誘導標識・ひば標柱一六基、案内板三基、入山届用BOX二基)。
 ◆登山道整備
  (急傾面の滑り止め、傾斜面、V字通路の修復、渡り橋)
◎入札時期・・第2 四半期。

*6月8日

「岩木山登山道整備工事」についての「意見および質問書」を岩木町町長あてに送付しました。


送付した意見の概要

1、望まれるのは自然に配慮した登山道であること

会員で登山好きのKさんから来た手紙
「・・・5月13日に今年初めて百沢口から頂上まで行って来ましたが、あの登山道にはがっかりしてしまいました。登山口に最初に建っている木柱(標柱)には頂上まで四時間と書いていながら5分位登った七曲の木柱には3時間30分と書いているではないですか。こんな馬鹿な事があるでしょうか。800m地点には苅り払いして登山道を新設しています。この地点は無神経にも高山植物の群落を真二つに割っています。本当に残念です。どうしてあんな登山道を造るのだろうと考えさせられてしまいます。」

 これは昨年「整備」された百沢登山道のことです。これでは整備とは言えないでしょう。

 また、4年ほど前から赤倉神社のある信者が勝手に行った赤倉登山道の「整備」(参照)も整備とはいえないものです。それは「自然への配慮がなく、あるがままの自然に対して人為的に加工を施し、しかも著しい伐採をしている。」からです。このことについて行政は頬被りでした。

赤倉登山道を登って来た横浜在住の登山者の談話
「 登山道沿いに掘られた溝、穴が沢山あるが何のためのものなのか非常に不思議だ。登りながら次々と出てくるそのことが気になってしようがなかった。ずっと続くんですよね。不可解なのです。私は全国の山をかなり登っているがこんな不思議な登山道は初めてだし、どこの山にもこんな登山道はない。あれは何で何のためのものか。ひどいことですね。よく行政が黙っていますね。明らかに自然破壊でしょう。」

「自然を実感出来る登山道」を求めている登山者に応えるためには・・・・・・・

(1)山にとってありがたい登山道の整備、つまり、これ以上山を傷つけないこと。
(2)自然的な治癒が可能な整備、人工的要素を可能な限り入れないこと。
(3)登山道整備に都市型道路の感覚や意向を導入しないこと。
(4)工事は土建業者にすべてを委託しないこと。行政担当者も実際現場にも出向くこと。
(5)植生・地質等に詳しい者、登山者等を現場に立ち会わせてアドバイス等を受けてそれを反映させるべきである。
・・・こと等が大切でしょう。

2、標識(標柱)等について

 標識等は自然から見ると「異物」であり、古くなってしまえばゴミです。設置した以上、「確実性」を持続させることが設置者の務めです。いつまでも保守点検して破損したものは補充していくこと、それが出来ない時は一斉に撤去することです。

(1)形体は単純ですっきりとして、明快な色彩でありながらも周囲の自然とマッチするものであること。
(2)掲示内容は登山者が求める最低限のものであること。
(3)設置場所は登山者にとってどうしても必要な場所であること。
(4)総じて、規模が最小で、最少の整備・設置が求められるべきであること。

 形体、色彩、掲示内容、設置場所、規模等の計画・設定には十分登山者の意見を聞き、それらを参考にすべきだ。設置現場設定には複数名の登山者を立ち会わせることを望みたい。

3、現在の岳登山道について

 現岳登山道は正直に言って緊急に整備しなければいけない場所はないと思われます。 鳳鳴小屋からスカイラインターミナルまでの道は岩木山のどの登山道よりも快適に登降の出来る道です。
 ブナ林中の道はしっかりしています。ブナの根は浅いので地表に浮き出ている部分が多いのですが登降の邪魔になるからといって切り取ってはいけません。
 また、台風によって倒されたブナがその根を二カ所にわたって見せているところがありますがブナの特殊な根付きの標本としては貴重なものですのでそのままにしておいて下さい。総合してみると「急傾面の滑り止め」や「傾斜面、V字通路の修復」箇所、現在ない「渡り橋」など整備不要のすばらしい登山道が現在の「岳登山道」であると言えます。
整備という事業を予算消化のためにだけするのであれば、即刻この計画は中止すべきでしょう。どうしても「整備」にこだわるのであれば、標識設置に抑えるべきです。
 スカイラインスキーコースとして使われ、しかも雪上車の通路とされていたために広くなってしまったのが岳登山道です。ここを自動車や冬には私用の雪上車が登っているのです。1月の雪崩2名死亡事故の遠因にはこれがあるでしょう。

4、「整備」よりも必要なこと

 羽黒方向からの登山道を通って、チェーンを装着した自動車が標高700m以上のところまで入っています。進入禁止の看板があっても自動車はどんどんと入って来て登山道を掘り起こし壊しているのです。冬季の雪上車の運行も同じです。運行によって雪上に出ている低木の梢を折り散らし、邪魔になる太めの枝などは鉈等で切っているのです。これらは登山道の破壊といえます。即刻これらの禁止を行政的に実施すべきです。


意見書と一緒に送付した質問事項

(1) 設置者として、百沢登山道および岳登山道を年間で何人の登山者が利用しているのかを把握していますか。

(2) 百沢登山道整備に関して植生、地質・地形などを客観的にどのように把握しましたか。

(3) 「登山者」の意見を参考にしましたか。どのような意見が出ましたか。

(4) 雪消えと同時に百沢登山道の確認をしましたか。確認事実をお知らせ下さい。

(5) 岩木山登山道整備工事岳登山道について次の質問にお答え下さい。

a、より具体的に地図上で標識等の設置計画の場所とその数を割り出した根拠を教えて下さい。
b、より具体的に地図上で、急傾面の滑り止め設置箇所、傾斜面やV字通路の修復場所、渡り橋設置場所とその必要性とそれらの方法と材料・材質等を教えて下さい。
c、渡り橋は現登山道にはないものです。なくて不便を全然感じないものを何故設置する必要があるのでしょうか。その理由と形体・材質等を具体的にお知らせ下さい。
d、何故、岳登山道が「登山道の整備」対象となったのですか。その総合的な理由をお知らせ下さい。
e、整備工事の開始時期は何月何日ですか。
f、工事現場の視察は可能ですか。

(6) 登山者の意見を聞くことを計画していますか。整備現場に登山者として参加が可能ですか。

(7) 質問への回答に対して別な意見や方途を提案した場合、それを受け入れて工事の縮小等を含めて工事の見直し、修正をすることはありますか。


*6月18日
 岩木町観光商工課から電話で以下の「回答」がありました。
1、整備に関わる具体的な計画書はないので質問への回答は出来ません。
2、整備計画はこれからします。具体的には「岩木山環境保全協議会」が担当しますので、その協議に参加してほしいと思います。日時は追って連絡します。
 
 それを受けて、本会は整備工事の具体的な設計・見取図の提供を受けて、自然・植生等保護から「自然に配慮しあるがままの自然に対して人為的加工を施さないこと」を登山道の整備の第一義的な視点として、

(1)これ以上山を傷つけない山にとってありがたい登山道の整備であること。
(2)人工的要素を可能な限り取り入れずに自然的な治癒が可能な整備であること。
(3)都市型道路の感覚や意向を導入しない登山道整備であること。
(4)整備計画等を業者にすべてを委託しないで必ず、植生・地質等に詳しい者、登山者等を現場に立ち会わせてアドバイス等を受けて、それらを反映させるべき整備工事であること。
(5)人工的な工事で「登山者の安全」を考慮するよりは、人的なメンテナンスで安全をはかることを大事にすること。
(6)岳登山道沿いに観察される蝶「フジミドリシジミ」の保護に十分配慮すること。

・・・等を「岩木山環境保全協議会」に参加し申し入れて、出来る内容であれば積極的に協力していくことを決定しました。

*7月10日
 日刊青森建設工業新聞(7月1日発行)で岩木町の「N建設」が整備工事を920万円で落札をしたことを知りました。

*7月13日
 「岩木山岳登山道整備工事」とそれが落札されたことに関する意見および要望の申し入れをしました。

*7月16日
 岩木町観光商工課から電話で26日に「岩木山環境保全協議会」を開催して計画を審議するので協議に参加することを認める旨の連絡がありました。

*7月26日
 「岩木山環境保全協議会」の計画審議に阿部会長、三浦事務局長が参加しました。当日提示された審議内容文書『岳登山道(町道常磐野4号線)の整備について』 「登山者に安全な登降をしていただくために、自然環境に配慮して行うものであるが、整備にあたり、次の事項を基本として行うものである。」

1、標識設置について

(1)標識は、登山者の安全、利便性を考慮し、必要最小限にとどめる。
(2)既存の不要となった看板等は、撤去する。
(3)看板、標柱は木材を用い、形体は単純なものに統一する。
(4)標識は、登山道上に設置するが、植物が生えている場合は、それを避けて設置する。

2、整備について

(1)登山者の安全確保のため、必要な場所に施す。
(2)既存の登山道の拡幅は行わない。
(3)自然石及び植物の掘り出し、移動、伐採は行わない。

協議会に提案され決定したことの他に確認されたこと

(1)急なところや滑りやすいところには複数の道を数年ごとに設定することで裸地化を避けることを検討する。
(2)急な所には階段状のものを設置するがその数は減らし階段の幅を広くする。
(3)今ある道の拡幅はしないし、基本的に出来るだけ道は広げない。
(4)鳳鳴小屋上部の御神坂に落石死亡事故についての注意書きを掲示する。
(5)将来「岩木山博物館」のようなものの建設を意図して岩木山の多くのことを後世に残すことを検討していく。


本会の声明と要望書

本会の声明

 当日提示された審議内容文書『岳登山道(町道常磐野4号線)の整備について』には、本会が送付した意見書の主旨が明確に以下のように反映されていました。
 岩木町の「登山道整備」に関わるこの基本姿勢は協議の場に自然保護の立場の者や 登山者を加えたことを含めて評価されるものです。本会はこの姿勢を支持し、出来るだけ多くのことで協力していきたいと思います。
 しかし、この「岳登山道(町道常磐野4号線)の整備について」に関わる文書が本会からのアクセス後、前掲の意見書を参考に協議会の開催時までに作られたものである以上、工事発注入札、落札というプロセスや環境保護・保全を考えると、やはりその杜撰さは否めません。冒頭の岩木町・14年度発注見通しにある「登山道整備の渡り橋」とは、昨年実施した岳登山道のものであることが協議の席で明らかにされましたたがこれも杜撰さのいい例だろうと思います。

岩木町に送付した「岩木町に望むこと」 (要望書の要点)

(1) 本会から送付された質問事項に回答して下さい。

(2) 本会から送付された「登山道整備」に関わる意見を十分に考慮し赤倉登山道や「百沢登山道」の不備・不具合の轍を踏まないように慎重に取り扱って下さい。

(3) 市民や登山者から「整備」に関わる提案等があった以上、それに答えうるような順序・手だてを踏んでほしいと思います。「具体的な整備計画」に基づいて市民・登山者等を交えて協議し、現地調査等もした結果を踏まえて工事を開始させて下さい。自然に関わることは、とりわけ拙速は避けるべきです。

(4) 時代趨勢を考えると、行政、業者、市民、登山者、自然保護に関わる人々、専門家等多くの者が意見や知恵を出し合いながら「岩木山という自然に配慮した望ましい登山道整備(改修)」に参画していくということには大きな意義があります。
 このような民主的な手だてや方法で整備工事が「岩木山の自然」を極力保護する形でなされるならば、「登山道整備のあり方は岩木町方式に学べ」と他自治体や市民から注目・評価されることにもなるでしょう。是非、業者、市民、登山者、自然保護に関わる人々、専門家などが参画出来る形で進めてほしいと思います。

(5) 昨年から南八甲田で登山道の整備が問題になっています。これは自治体(行政)が民主的・公開的にしっかりしたイニシアティブをとれないでいるうちに、登山者が善意から独自の「登山道整備」をして必要以上の苅り払いなどをしてしまったというのが真相のようです。行政はもっと市民や登山者に気配りをし「登山道整備」を自然・植生に注意しながらとらえることが大事です。

(6)岩木山は岩木町のシンボル以上に、町民の生活と伝統的に文化、歴史、伝承、生産等の分野で深く結びついていると思います。農業生産や観光商工的な資源としては欠くことが出来ないものです。
 岩木山の象徴であるミチノクコザクラを含めた高山植物は最近ひどいの盗掘に曝されています。町が誇りとする観光資源の象徴であるミチノクコザクラは年々減少しています。資源活用を促進するのであれば、資源を大事にし保守・保護していく必要があります。それには岩木山をそのままの姿で永遠に残すように努力するべきです。登山道整備もこの視点でとらえてほしいものです。

(7) 人的なメンテナンスで安全をはかることを大事にすることが自然保護的には重要なのでパトロールや監視指導をする人員を増やすための予算措置をして下さい。

(8) 百沢登山道、岳登山道の利用者数の調査を数年単位でして下さい。協力出来ることがあればいたします。

(9) 岩木町を中心にして岩木山の周辺自治体を設立母体とする「岩木山博物館」の設置などを視野に入れて下さい。

(10) 神聖な山頂にあるトイレの移動を考えて下さい。長平、松代口からは、奥宮を差し置いてよく見えます。景観、信仰上ない方がいいと思います。鳳鳴小屋のトイレを改造すれば山頂のものは不要でしょう。最近の登山界ではトイレが重大な関心事になっています。


*8月15日
 岩木町観光商工課から整備工事の開始は「お盆あけである」との連絡があった。
 登山道整備については98年のミズバショウ沼のことで県・岩木町と話し合いをした時から、岩木町には口頭で申し入れをしていたことでした。ところが昨年の百沢登山道整備の時もまったく「なしのつぶて」。こうしてはいられないとの思いで何回か文書を送り、協議会に参加というところまできて、町当局にも理解されたようです。

おわりに
 2002年8月の9〜11日、岩木青少年スポーツセンターで開かれた日本自然保護協会主催の「自然観察指導員講習会」の講師として本会会員3人でお手伝いをしました。
 観察のフィールド選択を任せられたので、景観と植生を損ねない造成計画に見直しすると県と町が確約してくれた「ミズバショウ沼」にしたのです。
 東北自然保護団体協議会代表の佐久間さん、協会参与の足立さんをはじめ多くの参加者から「自然がたくさん残っていてすばらしい。残せたのも岩木山を考える会の活動があったからだ。」と言われました。岳登山道も後々、市民や登山者がみな「自然がいっぱいだ。」と思えるように整備されることを心から願っています。

*工事後についてはその2へと続きます