岩木山のイヌワシ 幹事 土岐修平


『 イヌワシは現在国の天然記念物に指定され、環境省のレッドデータブックでは「絶滅危惧種TB類」、青森県でも「最重要希少野生生物Aランク(県内では、絶滅の危機に瀕している野生生物)」に位置づけられています。』


 一昨年(平成12年10月8日〜9日)のことである。岩木山山頂に一泊して、イヌワシの観察会を実施したときのことを思い出しながら書いてみた。
 当時、岩木山一帯、特に柴柄沢及び北斜面の大鳴沢川のガレ場にイヌワシが出現するとの情報が多数あった。イヌワシなど猛禽類の調査などで活動中の三上さんのことだから、確信があっての企画だろうと思い、即座に、他の予定などをキャンセルして参加することにした。
             
 初日8日(日)は、天気は快晴、風弱く穏やかな絶好の日和である。11時30分、2台に分乗弘前を出発、途中、岳温泉で昼食を摂り、スカイライン駐車場に到着したのは14時頃。直ちに夜営用の荷物をまとめ、リフトを利用した後登頂開始、ようやく山頂の山小屋に到着したのは15時30分過ぎだった。登山客など人の動いている時間帯は、イヌワシも目立った動きはしないだろうということで、手早く夕食時と就寝場所の確保と準備にかかる。
 リフトの運行も終わって、静寂が周囲を包みはじめた16時30分頃、夕暮れせまる山頂のひと時であった。山頂のお堂の横にいた私に向かって、西側(鳥海山方向)から、なんの前ぶれもなくスッーと浮いてきた黒っぽい大きな個体があった。見てやろう見てやろうと、首にかけていた双眼鏡が何の役にも立たない位に近いところを、その飛行体はこちらを睥睨しながら、南面、東面と山頂を一周するかのように、岩鬼山から赤倉沢方面に悠然と滑翔して消えた。

 明らかに興奮していた。しばらく言葉が出なかった。ただあれよあれよと目で追いかけたが、あっという間だった。まわりの人達に出現を伝えることも忘れていたようだった。強烈に印象的な出会いであった。
 あの警戒心が強いとされるイヌワシが、こんなに近くまで来るとは、もしかして「オレの縄張り区域になぜ来るんだ」と抗議に来たのかもしれない。
 薄雲が広がり、全天茜色に染まりゆく夕食時の話題は勿論イヌワシのことでいっぱい、イヌワシを独占したような興奮状態の私は、端から見ていて大分おかしかったのではないだろうか。その時どんな格好をしていたのかが酒の肴になっていた。
 また、「食物連鎖の頂点にあるイヌワシが岩木山のような独立峰にいること、これは取りも直さず餌となる小動物が住む自然環境がまだ残っているということ、このような環境は絶対守り残さなければならない。山岳地帯を住処として、めったに見ることが出来ないイヌワシが身近に見られる岩木山は貴重な存在であり、これ以上、観光開発、スキー場開発などを許してならない。人間の入り込みが続けばイヌワシは遠ざかるであろう。」と三上さんは熱っぽく話した。

 開けて9日(月)体育の日、空は高曇り、天気は下り坂という予報。8時起床、昨晩の残り料理でのオジヤとパンで朝食にする。8時15分頃には一番乗りの登山者が来た。その後の登山者の話しでは8時40分頃山頂付近を飛んでいたとの情報を得たが、あいにく食事中で気づかなかった。
 食後、山頂の見晴らしのよい地点に分散して陣どり観察に入る。10時過ぎ、山頂のお堂の下に散在する岩の一つから飛び出したらしいイヌワシを発見、後を追いかけるも岩鬼山の岩陰に消える。
 12時過ぎ、イヌワシが出現するとの情報を得て、わざわざ三沢市から写真を撮りに来ていた人から、西法寺森の斜面の岩で休んでいるイヌワシがいると知らせがあった。何でも1時間おき位の間隔で飛び回っている様子とのこと。
 空は次第次第に雲が厚く、そして低くなりだし13時過ぎには、下から雲が湧きだし山頂を通過するようになった。14時30分視界が悪くなったことで観察を終了、下山することとなった。
 以上のように2日間の観察会は好天に恵まれ、そして存分にイヌワシを身近に感じるとともに、この「岩木山の自然環境を何としても守っていかなければいけない」と心に決めた思い出深いものとなった。