ネジバナ (捩花・捩摺) 高みへと先導する造化の妙、紅白の小列柱

コバノトンボソウ(小葉の蜻蛉草) 宙に開放する小萢で遊ぶ黄金の蜻蛉

 現在は西岩木山林道から分岐して、長平登山道は始まると言ってもいい。だから登山者はそこに駐車するのだが、中には信者同様に「石神様」まで行ってしまう「登り」を嫌う者もいる。かつては長平部落の裏手に鳥居が建っていて、そこが登拝口だった。登山者はすべてそこから「歩いて」登った。
 間もなく「石神様」というところの道は斜面がきつい。車輪に掘り起こされ赤土や岩石の剥き出しがひどく花など咲ける状態ではない。加えて、右折する道の外縁はブルドーザーで掘り起こされた大きな穴で、そこは「石神様」社屋の改、新築工事で出た赤くさびついたトタン板や鉄骨などの廃材、石油ストーブ等の生活器具の捨て場となっていた。標高が六百メートルを越えているのに、そこは人工の墓場で自然はおよそ感じられない。
 その場を逃れたい思いから一気に「石神様」境内の草地に登った。ところが、足は踏みとどまって先に出ないのだ。足許には白と桃紅色のツートーンカラーが広がっている。小さい花が螺旋状に横向きに、捩れた花序に穂状について咲くネジバナの集団だった。それは初夏、高みへと先導する造化の妙、紅白の小列柱のように上方の登山道へと続いていた。 この花を秋田ではヒダリマキと呼ぶらしいがちょっと可哀想ではないか。好きこのんで「左巻き」になったわけではあるまい。漢名では竜という字を持つが(メモ参照何となく雰囲気が当たっている。いずれにしても自然造形の妙であるに違いない。

 ネジバナと別れ、乾いた岩混じりの道を行くといつものように水がしみ出しているところを通る。以前から不思議に思っていた。あまりわき見をしないで登っていたので、自由な時間は結構ある。そこで、その水源を探る冒険に私は向かった。じめじめする細めの湿地を辿って、根曲がり竹の藪を進むと開けた小さな萢に出た。視線の奥で細長い距の穂状花序、黄金の蜻蛉が踊った。思わず「あっ、コバノトンボソウだ。」という一言が口をついた。それは夏、宙に開放する小萢で遊ぶ黄金の蜻蛉だった。

メモ:ネジバナの漢名は盤竜参。また「もじずり」の模様に似ていることからモジズリともいう。