コケイラン(小蘭) 藪下に灯る暗黄色の小さな竿燈

タニギキョウ(谷桔梗) 深い葉陰に一縷の救い花二輪

 弘前勤労者山岳会が主催する「市民登山の集い」が七月の上旬に開かれた。昨年は弘前市民にあまり馴染みのない岩木山赤倉登山道ですることになった。その日の朝はあいにくの霧雨。天気はよくなることはあっても、これ以上悪くなることはないと踏む。事実そうなった。
 ブナが目立ってくると周りを数軒の祀屋に囲まれた湧き水に出る。水を詰めて、石仏一番のある赤倉尾根を登り始める。岩木山ではこのコースでしか味わえない信仰の山、石仏の道の始まりだ。この山旅は石仏と花を辿るものとなった。霧雨は次第にあがってきたが濃霧によって視界がよくない。すでに標高は六百メートルを越えていた。足許にはイワナシが固い茶色の実をつけ、時を過ぎたヤマツツジの花びらが散らばっている。イワナシの淡い桃紫色の優雅な花がどうして地味な茶色の実に変身するのだろう。兼好は「散りしをれたる・・こそ見所多けれ。」と言うが、淡い緑中に橙がかった色合で咲いているヤマツツジの漲る生気を知るがゆえに哀れさが漂う。
 そんな想いを含みながら細い稜線の道から尾根伝いにブナ林の中に入って行くと石仏の六、七、八番が出てきた。道の左右に眼がいく。必ず会えると信じていた花。期待に胸が弾む。探している花はコケイランだ。道の傍らに暗黄色の櫓が見える。思わず大声が飛んだ。「コケイランです。」藪下で小さな花をたくさんつけているそれは、さながら灯る暗黄色の小さな竿燈だった。
 そこを南に辿ると石仏の九番だ。この辺りは林相が薄く明るいので、深い葉陰も奥までよく見える。そのさらに奥に見え隠れしている小さく白い花は……タニギキョウ。
 会えてほっとする。この安堵感は何だろう。まさに一縷の救い、癒しの花……二輪である。


注:「小蘭」は別名「ササエビネ(笹海老根)」とも言う。