ムシカリ(虫狩)  己の緑葉を褥(しとね)にして輝く白砂(はくしゃ)の群れ

 春は直接地面からだけやって来るものではない。山道を登っているのだから足許に注意がいくのは当然である。だからその道の地表や傍らに芽を出す草々や咲き出す花々がよく見え、出会いが必然的に生まれてくる。そこで地面や道端に最初の春を見つけた気になる。 ところが、山道を登る時の視線は微妙なもので、勾配がきつくなると次第に眼と水平な所に集まるし、腰にかかる負担を和らげようと背を伸ばすとより高い方に移動する。そんな時に春を地表より高い所に発見することがある。ムシカリは発見される第一人者である。しかも、結構咲いている期間が長いので春の息吹と名残りや初夏の雰囲気までを堪能させてくれる有り難い花なのだ。この年は春の到来が遅れたようだ。ムシカリを遠くに眺め、今年も咲いたかとほっと安堵する。風が動き、白砂の群れは大きく揺れた。それに誘われてまた登りだした。