ウメガサソウ (梅笠草) 一途に貧土が育む鈴振りの精

 七月上旬、標高五百数十メートルまで押し上げられた登山口を出発した。古い林道から入るこの登山道は、途中に神社を二カ所持っていて、最初の神社まではミズナラ林の中を進む。登山道は年々広くなっていた。神社に来る者が自動車を使うために登山道は参道になってしまった。昔は登山者も参詣者も狭い一本道を歩き、不便や不自由を感じなかったし、道端の花も共有していた。車で来る人には花は見えない。私たちの世界を認識する窓の形が違えば見える範囲や性質は違ってくるからだ。歩かなければ花には会えない。見えないのである。また咲いていても適当な言葉を持っていない場合、その花が目に入らないこともある。
 道の繁みにはクルマユリの「車葉」が目立つ。二週間もしたら彼女たちが咲き出すに違いない。その葉の下に丈の低い二種類の白い花がぽつりぽつりと咲いていた。コバノイチヤクソウともう一つが乾いた貧土に咲く白い鈴振りの精、可愛いウメガサソウである。これもイチヤクソウの仲間で、根が貧弱なので菌類の助けで養分を取り入れていると言われている。いつの間にか彼女たちが目につかなくなってきたと思ったらブナ林の中に入っていた。