イワヒゲ(岩髭)  緑の髭先に付けた白い真珠


 信仰のためにやって来る者や山菜採りも追子森山頂の祠までしか来ないようだ。ここ大ノ平(松代)登山道は、数年前まで高体連山岳部が秋季登山大会で使っていたので、特に藪の濃い所は苅り払いをしていた。その所為もあって登山道が藪に消されてしまうことはなかった。しかし、ここ数年祠から長平登山道分岐まではもの凄い藪に覆われている。
 弘前勤労者山岳会では登山道継承を考えて毎年一回、私は数回このコースで登山を実施している。ただし、苅り払いは最少最低にとどめ、赤布を付ける程度にしている。
 六月の下旬、気温は朝から二十三度を示していた。藪の中は暑い。根曲がり竹の圧力と弾力にはじき返されながら藪との戦いが続いた。ようやく岩稜が姿を現し始めた。時折濃霧が湧き、ゆっくりと流れる。巨大な岩肌が行く手に迫る。イワヒゲが遅咲きのコメバツガザクラを背景にしながら岩肌にしがみつくように咲いている。近づいて見る。緑の髭先に付けた白い真珠が霧の粒々を身に纏って輝く。霧に濡れた素肌は寒さを感じるほどだ。その中でこの毅然とした命の輝きは神々しい。