オクエゾサイシン (奥蝦夷細辛)
           葉を笠にして地に臥す淡い臙脂色の小袖

 コメツガの深い緑が周囲の残雪に色こく映える。鬼ノ土俵は、冬場吹き曝しとなるため積雪は少なく雪は完全になかった。ニガナなどの芽吹きはあるものの花は見あたらない。
 対岸の八森沢稜線斜面ではコメツガとブナの若葉のコントラストが美しく心が和む。濃淡の緑は本当に目に優しい。それにしても鬼ノ土俵とはよく言ったものだ。まさに相撲の土俵のように平坦で丸い。昔の人たちは自然の地形をそのまま利用し名付けたのである。この道は信仰の道にはふさわしい。
 降りて行くところはほぼ直線でアオダモ、イタヤカエデ、低木ブナなどが繁る若葉のトンネルだ。
 ふと足許に光沢のある葉っぱが眼についた。急斜面なので直ぐにはとまれずに、数歩行って振り返って見たら、その葉がちょうど眼の高さにあった。背丈が十センチほどの葉柄の根元には枯れ葉に頬杖をついているような臙脂色の小花が見えている。オクエゾサイシンである。これは花の付き方や咲き方が他の花と違っていておもしろい。違っていることは変なことではない。これが個性であろう。葉も花もなんとみずみずしいことだろう。それに根は鎮痛薬にもなるという。