ムラサキヤシオツツジ(紫八染躑躅)
           若葉に浮かぶ紅紫色の踊り子たち

 山の雪は麓から次第に高みをめざして消えていくと考えるのが自然だろう。春は真っ先に里にやって来て花を咲かせて、それから山麓、山腹、山頂へと咲き出す花々の命に点火していくのだと、自然の摂理を思うと考えたくなる。ところが、そうではない。山麓より早く標高千二、三百mの風衝地に咲き出すし、山腹よりも早く山頂で咲き出すのである。
 今、山腹のブナ林の中はところどころに残雪を見せている。だから足許には花は見えない。八、七、六番と石仏を追って行くとブナ林を抜けて日影沢の左岸稜線に出るのだ。淡い若葉の木漏れ日が微かに消えて、全体が明るくなったように思われた。そして前方に開放された窓のような空間が広がりはじめた。
 その時である。左右に紅桃色の花々が一定の高さを保ちながら縦に斜めにと踊っている。ほっとした。今年もまた会えた。ムラサキヤシオツツジなのだが・・、名に負う紫という色彩感を私はなかなか持てない。濃い桃色に、光の加減ではますますそう見えることがある。登りながら花と名前の由来について問答することはしばしばだ。それが疲れを癒してくれる一手法にもなっているのだから楽しいはずだ。