ミヤマエンレイソウ(深山延齢草)
           大きな葉の海に浮かぶ臙脂と白の舟二艘

 
 昔に比べると登山道入口は随分とその標高を高くしている。メインである百沢登山道も昔は神社の大鳥居が入口であった。しかし、今はスキー場下部(標高三百四十メートル)に入口という標識が立つ始末で、標高で約二百メートル高くなり距離では約二キロ短くなった。以前は大鳥居から登りはじめ七曲がりを過ぎた所でみんな一休みをしたものだ。
  道路が整備されると入口は高い所に押し上げられるのである。今は弥生口、松代口も百沢口とほぼ同じように変わった。もっとも変わったのは長平口である。かつては部落の裏口が入口であり、そこからはオオジシギが飛び、オキナグサやアヤメが見事に咲く草原であった。そして、林縁にはゆったりとエンレイソウが咲いていたものだ。しかし、標高約五百メートルの所まで入口は押し上げられてしまい途中の草原的風情はないに等しい。
 岳口だけ昔のままだが、ここが一番高い所のスカイラインターミナルまで登山口を押し上げている。長い距離を速く楽にということが優先され、これを利用する登山者は一様に「岩木山には花がない。」と言う。確かにリフトの終点から山頂までの登山道沿いに花は少ない。激減したことも事実だが、多くの花はそこよりも下部の山腹や山麓に咲くのである。「深山なになに」と呼ばれる多くの花がこの高さと距離の間に生えている。
 岩木山では「昔の入口」から登山するとよく出会えるのが、山麓を代表する春告げ花エンレイソウ。登山者は花のある山麓の風情を楽しめなくなってきているようだ。エンレイソウが咲き出すころ、山麓の高い所はまだ残雪の世界なのである。