ミヤマツボスミレ (深山壷菫)
                群青を仄かに匂わせて群れ咲く白き気品

 西丸震哉が「日本百山」の中で「・・・まわりがどれほど原始的であろうと、道そのものは人の足が山体をひっかいた傷あとだ。」と言う。今登っている登山道も、またそのように「無惨な傷跡」に見えてしようがなかった。
 風にそよぐ背丈の低い根曲がり竹の茂みの下、消え残りの雪のような白い群がりが見えてきた。まさか雪ではあるまいに、残雪ならばとっくに消えた。新雪だとしたら、この季節では降りようがない。何だろう。歩みは一挙に速まる。近づくにつれて、それは若緑を俯く顔下に置いた小さな花が群れているものだった。どんどん近づく。まだ、小さな花が群れているとしか見えない。ミヤマツボスミレかも知れない。
 そばに寄ってよく見ると、花びらの随から先端にかけて紫がかった群青色のか細いラインが仄かに走っている。間違いなくミヤマツボスミレだ。この気高さと気品は何なのだろう。ふと、「白牡丹といふといへども紅ほのか」という高浜虚子の句を思い出した。