フデリンドウ (筆竜胆)陽ざしで開花し翳りで閉じる宙の占乙女

 明け方にお湿り程度に雨が降った。春という季節はおもしろい。夜から明け方にかけて雨が降り、太陽が顔を出すと雨はあがる。その土中にしみ込んだ潤いを吸い上げ、陽光を浴びて植物たちはみずみずしい命を育む。この時季に雨が降るという気象的・地理的な摂理に合わせて植物たちはずっと昔から、命を伝え進化してきたのである。我々もこれに学ぶことはあろう。そんな日の朝九時頃である。陽ざしは既に高く明るかった。不思議にも会いだすと次から次へと見えて来るものだ。それに関わる要素を学習するからだろう。明るい陽ざしも幸いした。花はすべて大きく開いて出会いを待っていてくれた。フデリンドウの可愛いブルーの妖しい魅力に引きつけられて、そこかしこと追って行くうちに気がついたら焼止り小屋に着いていた。
 最初の出会いは数年前の赤倉登山道。根曲がり竹の下で落ち葉を押し上げ咲いていた。褐色にこのライトブルーはよく似合う。今春、弘前勤労者山岳会の仲間と赤倉道を登り、途中赤倉沢を眺望出来るテラス近くで出会った。一瞬コケリンドウかも知れないと思い、「最初」の出会いに胸が高鳴った。背丈が小指の半分にも満たない。だが葉の付き方が違う。標高がすでに千三百メートルを越え、しかも風衝地、深い谷に落ち込んでいる地形から濃霧が湧き易い場所である。健気だ。小さな小さなフデリンドウ。頑張れ。「帰りには踏みつけないで下さい。」と一言。予報では午後から曇り。きっと花を閉じているだろう。案の定、帰りに閉じてしまって見えない花に「花がない。」と大騒ぎ。どうして閉じたものは地味の一語に尽きるのだろう。