津軽国定公園・ベンセ(沼)湿原(青森県つがる市)の危機!

岩木山を考える会

■津軽半島の西部に観光地として知られ、ニッコウキスゲが咲く頃に、毎年多くの人が訪れるベンセ(沼)湿原が危機に瀕している。
 それはベンセ湿原の仕切り柵と3m幅ほどの道路を隔てて北に隣接する土地が数十町歩ほどにわたって、泥炭地まで掘り起こされていることによる。しかも、はぎ取られて出た砂をあちこちに「大きな砂山」として積み上げている。膨大な量である。

 06年4月末現在、まだ掘り起こしが続けられ、「砂」を地内で移動して「山積み」にしている。

 ベンセ湿原については、本会とは直接関係はないが、下記ページでは昨年から既に心配の声があげられていることが確認できる。ベンセ湿原の位置や花々、その場からのぞむ岩木山もこちらが参考になります。
http://www.actv.ne.jp/~osamin/
http://www.actv.ne.jp/~osamin/bensereport2005.htm

■このことがなぜ、ベンセ湿原の危機なのか
 それはベンセ湿原が乾燥して「湿原」でなくなってしまうからである。ではなぜ、表土を剥いで砂を採取すると隣接している周囲の湿原は乾燥するのだろう。それは砂地の湿原地帯では地下の浅いところにある水脈(水層)がつながっていて、一方の表土を剥ぎ砂を取るとそこの水脈が沈下することによる。つながっている水には水位の高さを一定に保とうとする性質がある。だから、表土の剥ぎ取りと砂採取で一方の水位が下がるともう一方の、つまり「ベンセ湿原」の水位が下がるのである。これにより「ベンセ湿原」はどんどん乾燥していくのである。現に、雪消え間もないベンセ湿原を見ると、「表土の剥ぎ取りと砂採取」現場側一帯には「緑」が見られず、枯れた葦原になっている。淡い緑が見られるのは中央の「木道」付近だけである。
 写真は県が指定するベンセ湿原の境界を示す柵の後ろに積まれた砂山。その手前の湿原はすでに葦原に変移している。乾燥化が進んでいない中央部だけが緑の草が生えている。

 また、水には「毛細管」現象というものがある。表土や砂が取られず一定の高さを保っていると地下水脈は毛細管現象で地表近くまで上がってくるのである。ベンセ湿原の周囲には、松や柏の生えているまるで小高い島のように見える風景が点在している。これは表土や砂が自然の形で堆積していると「毛細管」現象で高い場所でも水脈はつながる作用をしていることを示すものである。表土の剥ぎ取りと砂採取は、この「毛細管」現象をも断ち切ることになるのである。

 以上のことから「表土の剥ぎ取りと砂採取」はベンセ湿原の乾燥化の二重の原因になり、近い将来、完全にベンセ湿原は乾燥してしまい、湿原は消えてしまうのである。そして、つがる市は多くの人が訪れる「観光地」を失うことになるのである。

■青森県自然保護課は…
 津軽国定公園を管理する青森県自然保護課は「国定公園地内であるが、私有地なので地権者が土地の改変を行うことまでは自然公園法では規制出来ない。ただし、砂の採取は法的に規制の対象になっているということは伝えてある。」と言う。

■地権者は…
 先日、地権者といわれる人に、この「現場」で会った。そして「砂を採取するつもりでこの土地を取得した。ところが法的にそれは出来ないので掘ったところに砂を移動し、均した上で耕地・畑地にするつもりだ。」と言う。また、「今頃になってこんなに大きな問題とされても困る。すでに、億に近い金を使っているのだ。」とも言った。

■疑問点とすぐにでもしなければいけないこと…
 青森県自然保護課が土地の改変工事がどれほどの規模であり、それがなされることで周囲の湿原という特別な土地にどれほど深刻な影響を与えるかということを地権者や改変工事業者等にしっかりと認知されるような指導をしたのかは疑問である。地権者の口ぶりからは、しっかりした指導があったということはうかがえなかった。

 また、地権者には「後に引けない」という姿勢がある。正直に語ってくれた「土地取得の目的は砂の採取」であったことに注目したい。掘り起こした砂を掘ったところに移動して均すといっているが、それにしては積み上げられている「砂山」群が大きく、しかも多いことと「黒い砂」「白い砂」というように分別されていることにはどのような意味があるのだろう。

 環境省、公園管理の青森県自然保護課、観光地として所有している自治体つがる市等行政を含めて、私たち一般市民は、積み上げられている「砂山」群が大きく、しかも多いことと「黒い砂」「白い砂」というように分別されていることの意味と「砂」が元どおりに戻されて、元の自然に近い状態の「畑地や耕地」になることをしっかりと監視しなければいけない。


きれいに砂地の表土は剥ぎ起こされて、そばに積まれている黒い砂。


目の前で「重機」が動いて砂を集める。奥に見えるのが乾いた「白い砂」。この山は高さが4m以上ある。


剥ぎ取られた表土にまじって植物の根を残す「泥炭」があちこちにより分けられて積まれている。


ものすごく広い。砂が集められて山をなしている。これからまた集める予定だという。


掘られた跡は「人工のため池」になっている。湿原周辺の沼の多くは自然に出来たものではなく、その6割以上が「砂取り」によって生じた人工の沼であると識者は語っている。


砂を掘り起こした跡地に埋め戻されるかどうかをきびしく検証しなければならない。これが商用物として「他所に運び出される」ことは許されないことだ。自然保護課等行政は厳しく監視すると同時に私たちもそのような行為を見逃さないように監視を続けようではないか。