鰺ヶ沢スキー場拡張工事(立木伐採工事)差し止め請求訴訟
原告団結成にさいしての決議

 私たちの祖先は岩木山の恵みを受けて、津軽の文化を築いてきました。私たちは岩木山に見守られて、日々の生活を営んでいます。私たちの子孫も岩木山を仰ぎ見て、心に安らぎを求めることでしょう。岩木山は津軽の霊峰です。その山が、今また、株式会社コクドによる鰺ヶ沢スキー場拡張工事によって大きく傷つけられようとしています。

 工事予定の大鳴沢周辺には、岩木山で最も美しい美しいブナ林があり、また他には無いヒバとブナの混交林があります。先人はこの森林を「田山」と呼んで大切にし、今から200年も前に水源かん養のために樹木を植栽しました。この森林によってかん養された水が大鳴沢を下り、あるいは伏流水となって鳴沢川流域を潤し、そこに生活する人々の命の水となり、農業にも広く利用されています。森林を伐採すれば、大鳴沢を源流とする鳴沢川や鍋川、湯船川の水量は減少し、地下水にも影響を与え、水質も悪化します。山がはぐくむ水資源に依存して農業を営む700所帯の人々の生活基盤を破壊する拡張工事は、住民の生活権を無視した暴挙と言わざるをえません。

 大鳴沢の上部は傾斜が大きく、崩壊や土石流の痕跡が認められており、水源付近における森林の伐採は、深刻な災害を招くおそれがあります。1975年8月6日未明、突如、百沢を直撃した土石流による悲惨な災害の悪夢をけっしてよみがえらせてはなりません。昭和63年の鰺ヶ沢スキー場開設当時の環境調査では、今回の拡張予定地には災害の危険性のあることが明らかとされています。森林の伐採が土石流や洪水の引き金になることは、周知の事実です。それを無視する拡張工事は、鳴沢川流域の住民の生命財産をおびやかすものです。

 拡張予定地は、岩木山でもっとも自然度の高い場所であり、クマゲラ、イヌワシ、ツキノワグマなどの生活圏になっています。森林の破壊と分断は人々だけでなく、貴重な野生動物にとっても重大な脅威となります。夏のスキー場は、広漠たる荒れ地以外の何者でもなく、森林との共生空間などと言える状態ではありません。日本百名山のひとつに数えられ、もっとも美しい「ふるさと富士山」と讃えられた岩木山を遠くから眺めると、山肌にスキー場が傷痕となっています。その傷をさらに広げる拡張工事は、そこに自然の豊かさと美しさを讃え、心身の憩いを求める私たちの環境権の侵害に他なりません。

 一企業によるこのような無謀な計画を、社会正義の見地からもけっして許すことはできません。私たちは計画阻止、拡張工事着工阻止にむけて、ここに原告団を結成し、公正な判決が下される日まで全力をあげることを決議します。


                 殿

2000年6月29日

鰺ヶ沢スキー場拡張工事差し止め請求訴訟原告団

代表  井 上 祐 一  他 56 名