始まっていたブナの伐採  会報「岩木山を考える」より

 六月二十六日に東北森林管理局青森分局は株式会社「コクド」に鰺ヶ沢スキー場拡張工事に関わる使用許可を与えた。決定の最終段階で「クマゲラ」のことが扱われた。「本州産クマゲラ研究会」と本会は合同で拡張部分の調査を四月にした。その時、クマゲラの採餌木を発見しこの場所がクマゲラの生息地であることを確認した。しかし、管理局の姿勢は「解らない。」県自然保護課は「営巣木がないから影響はない。」であった。監理局も保護課も視点は知事とコクドにしかない。青森県の政界は一党支配の上に知事が君臨する形で再編された。県議会には知事や県行政(役人)を質すという機能はないに等しい。冬季アジア大会に見られるように知事はやりたい放題である。雑誌「週間金曜日」よると、今年二月に知事はコクドの堤会長と当地ホテルで密約をしていたという。
 私たちには違法な行動は避けたいとの思いと「森林は伐採されたら終わりである」との思いがあったので「工事差し止め請求訴訟」を起こした。コクド側は「拡張工事の計画がないから、訴えを取り下げろ。」と言ってきた。ところが軽微な工事は既に五月に始まり、大工事が七月に始まっていたのだ。鳴沢川を守る会と本会では第二回公判前の六月末、弁護士を交え原告団の結成をし、「森林を伐採すれば、山が育む水資源に依存している農民の生活権を、景観を含めた環境権を侵害することになる。一企業による無謀な工事を許すことは出来ない。」ことを決議した。
 七月十日、地元の原告を中心に百年以上前に書かれた用水田山絵図面を見ながら、先人が残した田山を守ることと裁判のあり方について学習会を開き、実力行動の重要性を確認。公判前にデモ行動をし工事中止を求める要求書提出を決めた。当日は参加者三十人で約一時間のデモ行進をし、要求書をスキー場副支配人に提出した。ところが、要求書の回答を十九日までとしたにも拘わらず工事が行われていたことから急遽、十六日に車三十台、六十人が参加して二度目の抗議デモ行進を、スキー場付近で実施し、集会を開きスキー場藤田支配人に要求書を手渡した。その日隣接する同社ゴルフ場でアイフルカップの決勝があり、関係者と見られる男性三人がデモコースの町
道に座り込みをしてデモ隊を約二十分にわたって阻止したが、警察は黙認していた。八月二日に会員七名で拡張コースから少しだけ西下方の大鳴沢支流の沢でザリガニを確認、四匹を捕獲した。十六日自然保護課にザリガニのことで工事中止の要望書提出したが、その時の課長の対応は「上に伝えておく。」というもので「自然」に関わる回答はなかった。その後県はザリガニ確認調査をしたが発見出来なかったと発表していた。
 九月五日マスコミとの合同でザリガニ調査を実施したが、入林許可が前日の二十時過ぎに送られてきて、しかも入山許可時間を十時からを十二時からと変更してきた。私たちはこの措置を「マスコミ」対策と受け取り、十時に現場へ入ろうとしたがスキー場側はそれを盾に工事現場への進入を阻止、工事区域内で約一時間立ち往生したが拡張部分が跨ぐ大鳴沢本流でハコネサンショウウオを捕獲確認した。その後、二日の現場でマスコミ関係者とザリガニを四、五匹確認後、放流した。この事実が報道されると県は九月一日に確認していたと発表。前二回の調査ではいないといち早く発表したが、生息確認の発表が数日遅くなった。ここには行政とコクドのアセス改竄に見られた欺瞞に満ちた姿勢が見えるのである。また「発見したザリガニは別な場所に移す」と言っているが、これは「生態系の常識」すら理解できない行政が「自然保護」課であるを自白しているのと等しいことだ。
 スキーはスポーツの中でも時期や場所等限定されたスポーツと言える。その限定された範囲内の一部の人たちの満足と関わる企業の営利のために、自然を略奪し伐採して、永遠の自然を取り返しのつかない状態にしてしまうことは許されることではない。ところで、断っておくが私たちはスキーというスポーツを否定している者では決してない。ただ、人工のゲレンデは、岩木山にこれ以上必要ではないと言っているに過ぎない。
 森林は未来世代との共有の財産である。森林は酸素の供給源。水源を確保維持するもの。動物や植物が育つ生態系と位置づけられるものである。生育していることによってのみ確保されるみんなの財産なのである。ニーズに応えることがすべて許されるとしたら、それは今を生きている現在世代たちの満足だけのものであるはずだ。これだと循環型の世界は口先だけのものであり、現在の「スキー場文化」は未来との共存を現実的には否定している。この満足が未来世代を犠牲にしないようにしていくところが行政であるはずなのに、知事も自然保護課も森林監理局も未来世代を支える自然を放棄して、現在世代の自己満足との妥協に走ってしまった。過去を棄て、未来を展望出来ない現在などそれは空しい夢に過ぎない。ブナ林のシンボル・幹の周りが十メートルもある「岩抱き十三本のブナ」(伐採前)ばっさりと伐られていた(伐採後・写真が下手ですいません...管理人)。これは人間の空しい夢のために殺されたのである。
 スカイラインスキー場が雪上車運行を止め、スキー場事業から撤退するという。一九八四年六月十日(雪上車を使っての事業に乗り出す夏)の山日記には「七百から九百メートルのところの登山道脇で、コース整備のために切り倒されたブナ数十本を発見した。腹と胸にすっぽりとおさまる太さだ。何百年かけてこの太さになったのだろうかと考えた時、コース整備という名目でブナの森が破壊されていくこと、元に戻らないという取り返しのつかなさに怒りと情けなさを覚えた。」とある。返せないものを奪ってはいけない。
 この時も工事を前にして、鰺ヶ沢スキー場と同じように「ニーズに応える。雪上車利用という全国で類をみない方法だからスキー客の入り込み数も増える。」と地元経済の活性化を心地よい語り口で迫っていた。ところが、十五年目にして事業から撤退。そのために切られてしまったブナ林を誰が補償し、これから育っていく何百年という取り返しのつかない歳月を誰が埋めてくれるというのだ。世代間倫理が重要視される二十一世紀、鰺ヶ沢スキー場も拡張したところで、こうならないという保証は何一つない。森林伐採は未来世代に対する現在世代が残す「負の遺産」である。知事、名前だけの自然保護課、森林監理局、コクドよ、あなたたちは自分の子孫にツケを残したいのか。そのツケは他の人の子孫をも巻き込んでしまうのだ。これは未来に対する未必の故意、立派な『犯罪』である。

岩木山を考える会 幹事  三浦 章男


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