2000年2月16日

東北森林管理局青森分局長 殿

岩木山を考える会    会長  阿部 東
日本科学者会議青森支部 支部長 松原邦明
日本野鳥の会青森県支部 支部長 對馬昭三
日本野鳥の会弘前支部  支部長 小山信行
鳴沢川を守る会     会長  神 直臣

意見書

 平成12年1月20日に広告された国有林野施行実施計画の変更の中、津軽森林計画区における鰺ヶ沢スキー場拡張計画に対して、以下の通り異議意見を申し述べます。

(1)生物に対する影響
 拡張予定地域には二次林とはいえ岩木山で最も美しいブナ林と、この山には珍しいヒノキアスナロの群落があり、イヌワシ、クマゲラ、ツキノワグマ等の貴重な動物たちの生活圏となっています。ヒノキアスナロは藩政時代に水源涵養のために植林されたといい古文書の記録があり、歴史的に貴重であるばかりでなく、青森県内で最も高い場所で生育し特異な樹形を形成して、生態学的にも重要です。
 日本昆虫学会自然保護委員会は、岩木山の豊富で貴重な昆虫類に注目し、この山域全体を「昆虫類の多様性保護のための重要地域」に指定していますが、スキー場の拡張に伴う森林の伐採が、これらの生物群集に深刻な影響を与えることは、隣接する既存のゲレンデを見ても明らかです。そこには本来山地には見られない筈の人里植物が進入し、トノサマバッタやエンマコオロギなどの草原性昆虫の生息密度が異常に高まり、もはや森林空間ではなく「森林空間総合利用」のコンセプトとは相容れない状況になっています。岩木山の生態系と景観を保つためには、鰺ヶ沢スキー場の拡張を禁止するべきです。

(2)住民に対する影響
 鰺ヶ沢スキー場拡張予定地域に位置する大鳴沢は鳴沢川の水源であり、この川の水および伏流水は農業と日常生活に利用されています。流域の約700所帯の農家は、森林の伐採による水源の枯渇をおそれて、農林水産大臣に大鳴沢周辺を保安林に指定するよう請願書を提出し、また青森県知事にはスキー場の拡張を中止させるよう、要望書を提出しています。農林水産大臣に対する請願書は東北森林管理局青森分局を通して提出されました。前記の深刻な状況を当局は承知されているはずです。鰺ヶ沢スキー場の拡張が「森林の有する公益的機能」を著しく損ねることは、明らかです。事業者はスキー場拡張によって10人の雇用(冬期)増加を予定していますが、それと700所帯の生活基盤の確保とどちらが重いかは、誰の目にも明らかでしょう。
 鰺ヶ沢町長等は県にスキー場拡張を要請しましたが、直接の利害関係者である農家の方々は強く反対の意志を表明されていますから、町長等の要請は真に民意を踏まえたものではあり得ません。公益的な見地からも、鰺ヶ沢スキー場の拡張を禁止するべきです。

(3)環境整備の不備
 事業者が青森県に提出した環境影響調査報告書を詳細に検討しましたが、それはきわめてずさんなものでした。たとえば、天然記念物クマゲラの特徴的な採餌痕が存在するにもかかわらず、鳥類調査リストには欠落しています。調査期間も回数もきわめて不十分で、良心的な調査がなされたとは思えません。昆虫類に関しては、最も重要な5、6、7月に全く調査がなされていません。
 拡張予定地域の大鳴沢上部は30度の急傾斜地です。崩落地形や土石流の堆積物の存在が、地形学の研究者によって観察されています。下流の鳴沢川に、これまでにしばしば修復工事が行われてきた事実は、この川が危険な要因をはらんでいることを示唆しています。災害の危険性は水源地域の森林伐採によって増大します。それが、百年に一度、千年に一度であっても、百沢のような惨事を絶対に繰り返してはなりません。ところが事業者は地質・地形や水の動きについての調査はまったく行っていません。このような重大な欠陥をかかえた事業計画を認めるべきではありません。

(4)景観の破壊
 岩木山は津軽の霊峰です。東京で行われた「ふるさと富士山」の人気投票で一位になったことでも分かるように、美しい山です。その景観を美しいままで子孫に伝えることは、私達の責務です。ところが夏に鶴田、木造方面から見ると、岩木山の山肌に幾筋ものバリカンで刈ったような傷跡が見えて、景観が台無しになっています。景観保持の視点からも、これ以上にスキー場を拡張すべきではありません。

(5)学識経験者等の見解
 以上の視点に加えて、さらに行政上の問題もあって、これまでに岩木山を考える会、日本昆虫学会、日本昆虫協会、日本生態学会東北支部会、日本科学者会議青森支部、日本自然保護協会、日本野鳥の会、同青森県支部、同弘前支部、日本勤労者山岳会青森県支部、日本勤労者山岳会弘前支部、鳴沢川を守る会など10以上の学術団体、研究者集団、国土の荒廃を憂える人々などが、青森県知事に鰺ヶ沢スキー場拡張中止の要望書などを提出しています。さらに、拡張計画の阻止を求めて、すでに1万人以上の人々が日本全国からぞくぞくと署名を寄せつつあります。これらの人々の意見に謙虚に耳を傾け要望をを受けとめて、鰺ヶ沢スキー場の拡張を中止するべきです。